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ストーマ創成期に現場で感じた苦悩や葛藤

2022.08.10

私が看護師になった1980年代は、ストーマ造設術が増加傾向にありながらも、その専門的なケアや支援方法についてはほとんど学ぶ機会がなく、看護師は実際に患者さんを目のあたりにすることはあっても、ストーマ装具の種類や皮膚保護剤の存在すら知らない時代でありました。

オストメイトの皆さんもさぞかしストーマケアに難儀し、相当の苦悩や葛藤を強いられたであろうと、今でも一看護師として申し訳なく感じています。ストーマを保有すると社会復帰も困難な時代であったでしょう。

その当時、オストメイトの看護を担当した看護師には、私と同様に「何とかしたい」と考えていた方が多かったのではないかと思われます。

その頃の国内では、専門的なオストメイトへのケアを習得するために、自主的に海外でET(Enterostomal Therapist)研修を終えた1名の医師と、数名の看護師らがパイオニアとなり、患者会への協力だけでなく、医療者らを対象としたストーマケアや創傷ケアの啓蒙活動を始めていました。

また、志高い外科系医師らとETナース(ストーマ保有者を専門的にケアする看護師)らが、ストーマ関連学会や企業の後援を受けながら、ストーマリハビリテーション(SR)講習会を開始しており、毎回多くの受講希望者で溢れていて、各地方でも同様のSR講習会を始めようとしていた変遷期でもありました。

私は当時、泌尿器科病棟に所属しており、尿路系ストーマを造設した患者さんを担当したのをきっかけに、適切なストーマケアや社会復帰支援について詳しく学ぶ必要性を感じており、企業のセミナーなどを調べては密かに参加していました。

クリーブランドクリニックETスクールの分校が聖路加国際病院に開校(1986年。1994年に閉校)したとの情報を知り、1989年に自費で研修を受けることを決断しました。

ETスクールでは、ストーマ造設患者の看護について術前から社会復帰に至るまで、専門的に支援するための様々な学びがあり、創傷ケアへの応用、失禁ケアに至るまで、目からうろこが落ちるような、濃厚で凝縮した研修を受けさせていただきました。私を待っていてくれるオストメイトの皆さんを思い出しながら、なんとか日本で49番目のETナースとなりました。

聖路加病院

皮膚科外来での経験こそが、その後に自分が歩んだ看護師道の大きな糧となり強みとなったのでした。

しかし、あくまで民間資格にすぎないため、どんなに頑張ってもETナースとしての活動は正式に認められず、研修後の配置先すらスムーズに決まらず、悩み多い時を過ごしたのも事実です。

やがて皮膚科外来に配置が決まりました。希望していた外科系病棟ではなかったのですが、ピンチはチャンスとばかりに、それなら、あらゆる皮膚障害や予防的スキンケアについて詳しく学ばせていただこうと視点を変えました。

興味を持った看護師仲間らに声かけして、今まで自分たちが知り得た知識、技術などを共有する勉強会を外来処置室で密かに開催していた記憶があります。

そしてこの皮膚科外来での経験こそが、その後に自分が歩んだ看護師道の大きな糧となり、強みとなったのでした。

また、オストメイトの皆さんが皮膚科外来を受診するようになり、非公式なストーマ外来が皮膚科にて自然に始まっていました。そのうち、県内外の患者会に協力させていただいたり、学会や研究会で発表したりするうちに、院内でも正式に認められるようになり、国立系病院としては早期の1991年に、外科医、泌尿器科医協力のもと、ストーマ外来が開設されました。

今では考えられない話ですが、ストーマ外来が始まっても、院内のストーマケアの普及にはまだまだ困難がありました。

病棟では術後用のストーマ装具は完備してあるのですが、外来ではストーマ装具の各サンプルが足りず、公的な組織としては購入する数に縛りがありました。そのため、研究会や学会に参加した際に見本品をいただいてきたり、企業側に相談してオストメイトにご提供いただいたり、なかなか厳しいものがありました。

やがて地域でもオストメイトの社会復帰の質向上を願う同志らと繋がりを持ち、北関東でのSR講習会設立などにも携わるようになりました。それぞれの地域の特徴もあり、数年後には各県で独立した講習会、研究会に発展しましたが、コロナ禍の前は各地方でも定期的に開催されていました。

私は国立系病院に約10年勤務した後、スウェーデンで高齢者のストーマケアや在宅看護などの研修を経てから、地方自治体の病院に看護管理者として転職しました。

新たな病院では、すでに泌尿器科医師と外来看護師らがストーマ外来を始めていたので、私も加えていただきました。やがて院内や地域でも認められるようになり、数年後にはストーマ外来で培った新たな知識、技術、そして形成外科医師と看護師らのチーム力で、日本初の褥瘡外来も開設できました。

自分なりにオストメイトへの充実した支援を掲げ、地域とも連携しながら、ストーマケアの質向上と後輩育成など熱意を持って活動を広げたこの頃には、オストメイトが利用できる社会資源として各地でストーマ外来が開設され、患者会も増え、地域中核病院でのWOCN(創傷ケア、ストーマケア、失禁ケアを専門とする看護師)活用などが徐々に充実し始めていたかと思います。

今ではどこの病院に行ってもWOCNはいますし、さらに2015年から新たに導入された特定看護師も増えています。社会的に鑑みても、オストメイトを取り巻く環境は私が現役の頃より数段向上しているかと思います。

特にWOCNの皆さんや特定看護師の研修を終えた皆さんの活躍を見聞きする度に、オストメイトへの支援をするだけではなく、多職種協働チームの一員として院内の要になりながら、次なる看護独自の方向性を掲げる、新たなるパイオニアが誕生しているのだと感慨深いです。

PROFILE
山名敏子 さん

看護師、リンパケアリスト

<略歴>
聖路加国際病院ETスクール修了(1989年)
日本看護協会皮膚排泄ケア看護認定看護師資格取得(1998年~2013年)
一般社団法人リンパケアリスト協会顧問
NPO法人E-BeC(乳がん患者支援団体)名誉理事
埼玉県知事看護功労章受賞(2017年)