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人生の先輩であるオストメイトから「こわい」を学ぶ

2022.07.01

私が本格的に看護師として働き出したのは、某国立系病院の泌尿器科病棟からで、1980年代初頭のことでした。

その病棟では尿路系ストーマ造設術を受ける患者さんが多く、術前・術後の看護は元より、退院前までにストーマ装具の交換が自宅でもできるよう指導するのが必須でした。

ところが、自分はセルフケア指導も満足にできないことに気づき、これはストーマケアに関して専門的に学ぶ必要があると考えるようになりました。

ちょうどその頃、日本でも聖路加国際病院でそれらが学べるETスクールが開講したと知り、早速行動を起こしたのです。

運良く1989年に受講することができ、自院に戻ってからは私の帰りを待っていてくれたオストメイトへのケアを密かに開始したり、患者会立ち上げに協力したりしましたが、少しでもオストメイトの皆さんが安心するお顔が見たいとばかりに、一人で妙に意気込んでいた時期かもしれません。

そんな頃、70歳代の男性オストメイトAさんが退院後初めて外来を訪れました。

ストーマのセルフケアを確認する間、「とにかく俺は、こわくてこわくて」という言葉を繰り返しながらストーマ装具の交換をされるので、てっきり私は「ストーマがこわい」のだと思い、ボディイメージの変化をまだ受け止められないのかと教科書的に考えて、メンタルケアに力を入れて話していました。

すると、「あんた何か勘違いしてないか? 俺は指がこわいから、装具貼るのが苦手だと話しているのに、話をよく聞いて!」と、𠮟られました。

辞書で調べてみると、Aさんの言う「こわい」という言葉は、〈だるい、つらい、しんどい、硬い、疲れた、強ばる〉などの意味で主に北海道で使われている方言だとわかりました。

つまり、手指の巧緻性(器用さ)が低下していて、ストーマ装具の交換がとても疲れるとの意味だったのです。

私は、Aさんの𠮟咤を受けてやっと「こわい」という文言の背景を理解したのでした。

北海道の夕日

オストメイトAさんは私にとって、組織で働く意義まで考えさせてくれるような恩人となりました。

それ以来、早とちりはコミュニケーションエラーを起こすだけでなく、やがて信用も失いかねないということを学び、自分が色々専門的に学んだことを教科書的に指導するような姿勢を改め、まずは聴く力を身につけて相手に寄り添う努力をするようになりました。

オストメイトAさんはまさに私にとって、何気ない素朴な会話から、患者さんの目線や看護の視点だけでなく、組織で働く意義まで考え直させてくれるような恩人となったのです。

現在、私自身があの時のAさんと同年齢となり、今年に入り手指の巧緻性が急に低下してしびれも出てきており、つらくて「こわい」経験をしています。

もし、Aさんがご存命で今の私を知ったなら、「やっと、こ・わ・い、がわかったかい」と多分笑われたでしょう(私の場合は典型的な手根管症候群と診断をされています)。

今では高齢者の認知機能と手指の巧緻性についての研究も多いようですが、加齢に伴う要因の「こわい」なのか、なんらかの認知機能低下の要因が潜んでいる「こわい」なのかなどの問題もあります。

指導・相談のチェック項目に、筋力低下、感覚機能の低下、反応速度の低下などが入っていて、ストーマ装具のセルフ交換が、一歩進んだ手のリハビリとしての役割も担っている時代に変化していれば、たいへんうれしい話です。

また、皮膚は第三の脳とも言われるように賢い役割があります。

新型コロナ禍では難しいかもしれませんが、高齢のオストメイトやご家族の手指のこわばりなどを知るために、少しでも優しく手に触れて、リンパケアでもマッサージでも良いので、癒しホルモンであるオキシトシンを増やして頂ければ、互いに感謝しあう、まさにケアリングとなり、効果的なケアだと思います。

PROFILE
山名敏子 さん

看護師、リンパケアリスト

<略歴>
聖路加国際病院ETスクール修了(1989年)
日本看護協会皮膚排泄ケア看護認定看護師資格取得(1998年~2013年)
一般社団法人リンパケアリスト協会顧問
NPO法人E-BeC(乳がん患者支援団体)名誉理事
埼玉県知事看護功労章受賞(2017年)